当時も現在も、さいとうなおき氏はポケモンカードにおいて「最高峰の人気と実績を持つイラストレーター」のひとりです。そんな彼を、最高レアリティ(SR)ではなく、パックを開ければ誰でも手に入るアンコモン(U)という普通のカードの担当に据えたこと自体が、公式の「このコンボデッキをみんなに流行らせたい」というマジでガチキチ路線の証拠。
さらに、この「超爆インパクト」というパックには、最高レアリティであるサポート「アカネ(SR)」も収録されています。そのイラストも、もちろんさいとうなおき氏が担当しています。サポート「アカネ(SR)」:アカネが主役の最高レアカード、この「ミルタンク(U)」:ミルタンクが主役で、後ろにアカネがいるカード。同じパックの中で、同じイラストレーターが「主役」と「背景」を入れ替えた対のイラストを描くことで、コレクションとしての価値を爆発的に高めてる。公式が明確に「アカネとミルタンクのセットを、このパックの最大の目玉(エモい要素)にする」と決めていたからこその采配。
先ほど「トラウマは素材」という話をしましたが、公式はその素材の扱い方を熟知して、ただの強いカードにするだけでなく、神絵師であるさいとうなおき氏の圧倒的な画力で「可愛くて、でもめちゃくちゃ強そうで、トレーナーとの絆も感じる」という完璧な1枚に仕上げることで、当時ゲームを遊んでいた世代の物欲を全力で刺激しにいった。「今、人生最大のチャンス(ビッグウェーブ)が来ているから、絶対にユーザーを逃さない最強の弾を撃ち込む!」という、公式のこれでもかという超攻めの姿勢(大勝負)だった。
また、当時の時勢には、以下のような背景がありました。売上が前年比「500%(5倍)」というとんでもない大爆発です。2018年の夏(7月)、誰でもすぐ始められる「500円デッキ(GXスタートデッキ)」を発売したところ、これが大ヒットして新規プレイヤーが文字通り数万人規模で激増しました。売上ベースで前年比500%以上を記録し、カードショップだけでなくコンビニや家電量販店からもポケモンカードが完全に消え去るほどの異常な品薄(売り切れ祭り)が起きていました。公式がお詫び文を出すほどの社会現象だったのです。
この「ミルタンク」が収録された「超爆インパクト」は、その500円デッキで入ってきた大量の初心者(過去のテレビゲームプレイヤー)たちが「初めてリアルタイムで迎える、記念すべき最新パック」でした。新しく入ってきたファンに「ポケカってこんなにエモくて面白いんだ!」「もっとパックを買いたい!」と思わせる必要があったため、公式は絶対にクオリティを落とせない勝負所。初心者に向けてさいとうなおき氏の最高のイラスト(アカネ)で、「カードの見た目の良さ」をアピールし、古参・原作ファンに向けて「金銀のトラウマコンボ」を仕込むことで、昔ポケモンを遊んでいた大人の復帰勢を「公式分かってる!」と狂喜乱舞させる。つまり、このミルタンクとアカネのガチ構成は、「奇跡的な大ブームを、一過性の流行りで終わらせず、一生続くカルチャーとして定着させるための、公式の命がけのブースト(テコ入れ)」だったと言えます。
結果としてこの2018年の大ブームが、現在の世界的なポケカ人気の基盤を作ることになりました。そして、なぜ2018年の500円デッキが生まれたのかはめっちゃ考察するとポケモンGOにその答えはありました。2016年に世界中で社会現象になったスマホアプリ『ポケモンGO』。これで「子供の頃にポケモンをやっていた、世界中の大人(初代・金銀世代)」がトレーナーに復帰したのです。このポケモンGOで温まりきった世界中の大人たちに向けて、2018年、公式が日本から「500円デッキ」や「ジョウト地方(金銀)テーマの超高クオリティなカード」を怒涛の勢いで送り込みました。長年あった海外の遊び場に、経済力を持った大人が一気に流れ込んできたのがこの2018年です。
また2018年9月、公式は競技シーンにおいて「過去の古いカードを公式大会で一斉に使えなくする(レギュレーション変更)」という大改革を行いました。それまでのポケカは、何年も続けている古参プレイヤーが圧倒的に有利なゲーム。しかし、このリセットによって「今から始める初心者も、10年やってるプロも、全員同じスタートライン」へリセット。この思い切ったルール変更が世界中で「今が始めどきだ!」という空気を作り、新規ユーザーの参入ハードルを完全に破壊したんです。
そして同年2018年は、YouTubeの動画カルチャーが世界的に成熟した時期でもあります。日本で「神絵師のSRカード」や「エモいイラスト」がバズると、それがリアルタイムで翻訳され、海外のインフルエンサーやコレクターに筒抜けになるシステムが完成していました。「日本でとんでもないお祭り(品薄・争奪戦)が起きているぞ」という熱狂が動画を通じて海外に筒抜けになり、「海外のコレクターが、日本のカードや、現地の英語版パックを買い漁り始める」という、現在のグローバルなコレクター市場の火がついたのがまさにこの2018年です。
結論として、公式が「長年コツコツ作っていた海外の安全な土台(スーパーで買える環境、図書館等で遊べるジムシステム)」に、「ポケモンGO帰りの大人」「世界的なルールリセット」「SNS・YouTubeの拡散力」という2018年の特大のパラダイムシフトが重なったことで、一気に世界的な大爆発へと化けた、というのが今のポケカ人気の発端です。長年地道に環境を整え続けていたからこそ、2018年のビッグウェーブが来たときに、日本、海外市場が共に崩壊せず一気に受け止めることができた、とも言えます。
最初の三行で諦めずここまで読んだ方なら『ポケモンGO』は「ポケカ(カードゲーム)のために仕込まれたもの」なのかと。思ったはずです。調べてみるとそうではではありませんでした。しかし、結果として「ポケカを大爆発させるための最高かつ最大の仕掛け(導火線)」になってしまった、というのがエンタメビジネスの面白いところです。『ポケモンGO』が誕生した本当の経緯と、それがなぜポケカに繋がったのか、裏側の歴史は以下の通りです。
『ポケモンGO』は、ポケモン公式が「カードを売るぞ!」と企画したものではありません。2014年、Googleマップのチーム(のちに独立するNiantic社)がエイプリルフールのジョーク企画として、「Googleマップ上でポケモンを探して捕まえるゲーム」を公開しました。これが世界中で「ありえないほど面白い!」と大バズりし、それを見たアメリカのエンジニアたちが「これ、本気でスマホゲームにしたら世界を変えられる!」と、ポケモン社に直談判しに行ったのが開発のきっかけです。
2016年『ポケモンGO』がリリースされた当時、公式(株式会社ポケモン)が考えていたのは、カードのことだけではありません。当時は『ポケットモンスター 赤・緑』から20年が経ち、ポケモンというコンテンツ自体が少しずつ「昔のゲーム」になりつつありました。そこで、「もう一度、世界中のあらゆる世代(特にスマホを持つ大人)にポケモンを日常的に遊んでもらい、ブランドを復活させること」が最大の目的でした。
ここからが公式の「ガチの経営判断」の見せ所です。『ポケモンGO』が世界中で大爆発し、かつてポケモンを遊んでいた大人が数千万人規模で戻ってきました。公式はここで気づきます。「今、世界中でポケモンの熱量が過去最高に高まっている。この大人たちに、次に何を渡せば一番熱狂してくれるか?」その答えが、日本国内で2018年に仕掛けた「500円デッキ」であり、あの「ミルタンク(さいとうなおき氏の神イラスト)」を詰め込んだジョウト地方(金銀)テーマの最新パックでした。つまり、「ポケカのためにポケモンGOを作った」わけではないですが、「ポケモンGOが起こした奇跡の海外・国内の大ブームを絶対に無駄にせず、すべてポケカの売上に繋げてみせる!」という公式のガチで取りに行くこの戦略(ブースト)が見事に決まった、というのが歴史の真実です。このミルタンクのカードは「ただのミルクを出す牛ではなく」ポケモンカードの『歴史を変えた特異点の一枚』と私は思っている。マジでおもしろいよね。
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